『水曜日の食卓』は、とりあえず無事に幕が開いたと思ったら、今日はもう楽日である。 何しろ公演日が3日間4ステージなのだから、初日と中日と楽日しかない。 個人的には、本番が全部で4ステージしかないなんて芝居をやるのは、ホンマに久しぶりである。 M.O.P.でいうと、近鉄小劇場に初めて出た『オールディーズ』の初演くらいが最後ではないかな。 13年も前だ。 しかも今回の会場はキャパシティーが150席の、まさに小劇場である。 この規模の会場で4ステージとなると、ほとんどOMSでやった処女作の『HAPPY MAN』のあたり以来かも知れない。 でも、今回は、そのたった4ステージのために、戯曲講座用のあらすじ全国公募があり、鐘下辰男くんによる戯曲講座があり、キャストオーディションがありと、実に足かけ三年くらいの準備期間を経ての公演なのだから、これはある意味べらぼうに贅沢な公演でもある。 とにかく、きちんと手間ヒマかけて作った芝居だ。 派手さは一切ないのだが、とてもハートフルな作品。 内容については、大阪でのロケ仕事のついでに初日前のゲネプロを観に来てくれたキムラも「いやァ、ええ芝居やったわ!」と声を大にして感激してくれていたということで、おおよそを察していただきたい。 スタッフワークのことについては前も書いたが、本番で特筆すべきは「消えモノ」ね。 題名からも想像されようが、この芝居には家族の食事シーンがやたらにある。 出てくるのは、ご飯、味噌汁、漬物、八寸(広島の家庭料理、五目煮みたいなもの)、ツナじゃが、野菜サラダ、水炊き、白粥などなど……。 でもって、今回はそれらすべてに本物の「消えモノ」を使用したわけである。 いやー、これはすごかったね。 演出部の担当スタッフが毎日裏で全部本物を作ってた。 いちばんすごいのは劇の終盤に出るポトフよ。 何がすごいってさ、だってこのポトフは劇中では誰も食べないし、観客からも鍋の中身までは見えないんだぜ? つまり水を入れた鍋を出しとくだけだってまったく構わないのに、にも関わらず毎日本物の美味そうなポトフが裏で作られて舞台に出されてた。 まったくなァ。 あんたらは黒澤組のスタッフか(笑)。 あと、劇中のオリジナル音楽も素晴らしかった。 作曲家の加藤健一くん(あの有名俳優さんと同姓同名だね)には、ハープっぽい音色のケルトの曲を演出家がイメージしてる音楽として渡してあったのだが、見事にそれを越えるような曲を3曲も作ってくれた。 しかも、メインテーマは最終的に本物のハープ奏者を使って録音し直したという。 いやはや。 これらすべての手間ヒマが、600人の観客に見せるためだけにかけられたのだ。 これを贅沢と言わずして何と言おう? でもね。 こういうことこそが「文化」なんだと思うよ。 いや、マジでさ。 ま、その全4ステージの公演は無事に始まり、とにもかくにも無事に終わった。 キャストとスタッフ全員に、心の底から「お疲れさま」と言いたい。
ところで。 今回の芝居は全篇広島弁の芝居であるので、これを機会に広島弁を多少なりともマスターしたいという下心があった。 劇作家・演出家のはしくれとして、まァ、今後何かと役立つこともあるだろうしね。 で。 その中でもお気に入りの一つが「たちまち」である。 この言葉、広島では「たちどころに」という意味よりも「とりあえず」といったニュアンスで使うらしい。 つまり、冒頭部の「とりあえず幕が開いた」は「たちまち幕が開いた」ということになる。 学校の先生なんかも「とりあえずプリント配ります」というのを「たちまちプリントを配ります」とか言うらしい。 何だか愉快だ。 そういや酒井のオヤジは広島出身だから、今度じっくり聞いてみようかな。 もう一つ、「よいよほんま」という台詞がよく出てきて、こっちは「まったくもう」みたいなニュアンスらしい。 「おまえもよいよほんま」と言えば「おまえって奴ァまったくもう」ってことらしい。 これも何か愉快。 オレの中では、友Q文体ブームが去って、これからはちょっと広島弁ブームがくるかも。 今度呑み屋で「ビール三本、たちまち!」とか言ってみるかな。 ものすごく「たちどころに」出てきたりしてな。
ま、てなわけで、いろんな人々や事柄に感謝しつつ。 さらば、広島!
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